左利きの猫は、研究の中で珍しい存在ではありません。ただし、「猫の何%が左利きか」は、調べる動作や判定方法によって変わります。
たとえば44匹の飼い猫を調べた2018年の研究では、左前足を優先する猫の割合は、食べ物を取る・階段を降りる・トイレの縁をまたぐという動作ごとに34.1〜40.9%でした。この研究を例に、数字の意味を順に見ていきましょう。
このサイトは左利きの世界をテーマにしているので、人間だけでなく左利きの猫の話にもつい反応してしまいます。
ここでは、左利きの猫の割合、オス・メス差、研究結果をあなたの猫に当てはめるときの注意点を整理します。自宅での詳しいチェック手順は、後半で別記事をご案内します。
左利きの猫の割合はどのくらい?

まず、「左利き」は左前足を優先して使うことを指します。研究では前足の使い方を繰り返し記録し、左・右・明確な偏りなし、のように分類します。一度左前足が出ただけで判定するわけではありません。
44匹の研究では動作ごとに違った
クイーンズ大学ベルファストのMcDowellらの研究は、1〜17歳の飼い猫44匹を対象にしています。内訳はオス24匹・メス20匹で、全匹が去勢・避妊済みでした。
| 調べた動作 | 左を優先 | 右を優先 | 明確な偏りなし |
|---|---|---|---|
| 食べ物を前足で取る | 18匹(40.9%) | 14匹(31.8%) | 12匹(27.3%) |
| 階段を降りる最初の一歩 | 15匹(34.1%) | 16匹(36.4%) | 13匹(29.5%) |
| トイレの縁をまたぐ最初の一歩 | 16匹(36.4%) | 13匹(29.5%) | 15匹(34.1%) |
割合は各動作の対象44匹を分母にして、小数第1位に丸めています。出典はMcDowellら「Lateralization of spontaneous behaviours in the domestic cat」(2018年、大学公開論文)の結果です。
この44匹では、各動作で左を優先する猫と右を優先する猫の数に、統計的に有意な差はありませんでした。左利きの猫は、右利きの猫に比べて極端に少ないとは言えない、というのがこの結果から読み取れることです。
「利き足あり73%」は左利きの割合ではない
大学の発表では、食べ物を取る動作で73%、階段を降りる動作で70%、縁をまたぐ動作で66%の猫に前足の偏りがあったと紹介されています。これは左と右を合わせた「利き足がある猫」の割合です。クイーンズ大学の研究紹介(2018年1月19日)でも、この意味で説明されています。
たとえば食べ物を取る動作なら、左18匹+右14匹=32匹で、32÷44=72.7%。左利きだけなら18÷44=40.9%です。「猫の約7割が左利き」と読み替えると、別の数字になってしまうんですね。
複数の研究を合わせるとどうなる?
2019年のOcklenburgらのメタ分析では、左・右・偏りなしの3分類を用いた猫の16研究、計844匹のデータから、左右どちらかの前足を優先する猫の割合を78%と推定しました。95%信頼区間は70〜84%です。
メタ分析は、複数の研究結果を統計的に統合する方法です。この78%も左利きだけの割合ではありません。同じ論文は、猫全体に人間のような右利き優勢があるとは示していません。出典:Ocklenburgら「Paw preferences in cats and dogs: Meta-analysis」(2019年、PubMed)。
単一の研究とメタ分析で数字が違うのは、対象の猫や測定条件が同じではないためです。論文でも研究間のばらつきが大きいことが報告されています。「世界中の猫の78%に必ず利き足がある」と確定した数値として使うのは避けましょう。
割合を読むときの確認ポイント
- 分母は調べた猫全体か、利き足のある猫だけか
- 左利き単独の数字か、左・右を合わせた数字か
- どんな動作で、どんな基準を使って分類したか
- 1つの研究の実測割合か、複数研究からの推定か
たとえば、右と左の2分類しかない研究と、「偏りなし」を含む3分類の研究では、そのまま割合を比べられません。数字と一緒に分類方法も読むと、情報の食い違いを整理しやすいですよ。詳しい分析条件は著者所属大学が公開しているメタ分析の全文で確認できます。
オスは左利き、メスは右利きが多い?
44匹の研究では、食べ物を取る・階段を降りる・トイレに入る動作で、オスは左前足、メスは右前足を使う傾向が見られました。2019年のメタ分析でも、メスはオスより右前足を優先する確率が高いという性差が報告されています。
ただし、「オスは全匹左利き」「メスの左利きは異常」という意味ではありません。集団の傾向が分かっても、それだけで目の前の猫の利き足は決まりません。
性差の理由について、大学の研究紹介はホルモンの関与を可能性として挙げていますが、さらなる研究が必要とも述べています。ホルモンが原因だと、この44匹の研究で証明されたわけではない点は区別しておきたいですね。
子猫にも同じ割合を当てはめてよい?

44匹の研究の対象は1〜17歳なので、その表を生後数か月の子猫の割合として使うことはできません。年齢の範囲も、研究データを読むうえで大事な条件です。
成長については、Wellsらの2012年の研究があります。同じ12匹を生後12週・6か月・1歳で調べたところ、12週と6か月では偏りのない猫が多く、1歳では利き足を示す猫が多くなりました。出典:Wells・Millsopp「The ontogenesis of lateralized behavior in the domestic cat」(2012年)。
これは成長に伴う変化を示す研究ですが、小さな対象集団での結果です。「すべての猫が1歳の誕生日に利き足を確定する」といった判定基準にはなりません。子猫の左右の使い方がまだ安定しなくても、急いでラベルを付ける必要はないかなと思います。
左利きから性格やストレスは分かる?

割合の研究と性格の研究を分ける
44匹の研究が調べたのは、前足などの左右の使い方です。そこから「左利きの猫は心配性」「左から触ると必ず安心する」とまでは言えません。大学の研究紹介に出てくる、左利きの犬の悲観的な反応についての話も、犬を対象にした知見です。
猫の性格を調べた研究もあります。2016年のMcDowellらの研究では、左利き・右利き・偏りなしを各30匹ずつ集め、計90匹の気質を評価しました。左右の方向よりも、偏りの有無や強さと気質の評価との関係が目立ち、左と右の群の有意差は飼い主評価の「遊び好き」という1項目でした。出典:McDowellら「Lateral bias and temperament in the domestic cat」(2016年)。
この研究は3つの群を同数ずつ選んでいます。ですから「左利きは全体の3分の1」という割合の根拠には使えません。また、群の間に関連があっても、あなたの猫の性格や健康状態を利き足だけで診断できるわけではありません。
左利きを理由に性格を決めつけない
「左利きだから怖がり」「偏りがないから脳の負担が大きい」といった説明は、ここで確認した研究から導ける結論ではありません。利き足は興味深い観察項目ですが、接し方はその子が実際に見せる反応を優先しましょう。
愛猫の観察に研究結果を生かすには

あなたの猫を観察するなら、「おもちゃでは左が多い」「段差の一歩目では右が多い」のように、動作ごとに分けてメモすると分かりやすくなります。別の動作の記録を混ぜると、どの場面で偏りがあるのか見えにくくなるからです。
ただし、左におもちゃを置けば左前足が出やすい、といった位置の影響にも注意したいところです。気軽な観察で数回左が出たことと、研究の基準で左利きに分類されることは区別しましょう。
観察場面や記録の進め方は、猫の利き手の調べ方をまとめた記事で紹介しています。性格についての話は、本記事で説明した研究の限界も踏まえて読んでください。
チェックをするときは、「結論を出すためのテスト」というより「観察ゲームを一緒に楽しむ」くらいのテンションでやるのがいちばんです。
猫が嫌がり始めたら、その日のチャレンジはそこで終わりにして、また後日ゆるく再開しましょう。
遊び方も「左利きだから左側から」という型に固定せず、猫が乗り気か、無理のない動きかを見ながら調整してください。左利きと分かったことだけを理由に、特別な道具やケアが必要になるとは、紹介した研究では示されていません。
左利きの猫について覚えておきたいこと
- 44匹の研究では、左を優先する猫は動作によって約34〜41%だった
- 73%や78%は、左右を合わせた「利き足あり」の割合
- オス・メス差は集団の傾向で、個体の判定にはならない
- 子猫や別の集団へ、研究の割合をそのまま当てはめない
- 利き足だけで性格やストレス耐性を決めつけない
左利きの猫を見つけたら、「珍しいから心配」と考えるより、その子の前足の使い方として楽しんでみてください。研究の数字は、愛猫を型にはめるためではなく、観察を深める手がかりとして使うのがちょうどいいと思います。

