※本記事は、左利きに関するこれまでの研究や説を「分かりやすく整理する」ことを目的としたものです。
医学的な診断や治療を行うものではなく、具体的な体調や病気について不安がある場合は、必ず医師などの専門家に相談してください。
左利きだと心臓に負担がかかる──。
そんな噂を聞いて、不安になってこの記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
「左利きは右利きより体に負担がかかりやすい」「左利きは寿命が短い」といった話題は、
テレビやネットでもたびたび取り上げられてきました。なかには、
「左利きだとどんな病気になりやすいの？」
「子どもが左利きだけど、健康面で大丈夫なのかな？」
と心配している親御さんもいるかもしれません。
一方で、こうした話には古いデータや誤解に基づいたものも含まれており、
そのまま信じてしまうと、必要以上に不安が膨らんでしまうこともあります。
そこで本記事では、以下のテーマを、できるだけ落ち着いて、フラットに整理していきます。
- 左利きが心臓に負担をかけると言われる体の構造的な理由
- 左利きと右利きで寿命に差があると言われる根拠と実態
- 左利きがかかりやすい病気や日常生活で受けるストレス
- 左利きの割合や、子供が左利きになる脳と遺伝の関係
左利きは心臓に負担になる？噂の背景と現在の見方
「左利きだと心臓に負担がかかる」と言われる理由
左利きの人については、
「心臓が左側にあるのに、左手をよく使うから負担がかかる」
といった説明を耳にすることがあります。
ただし、これはあくまでイメージに近い説明であり、
「左手を使うこと自体が心臓に直接ダメージを与える」といった
明確な医学的根拠が確立しているわけではありません。
よく挙げられる背景としては、次のようなものがあります。
- 心臓をはじめとした重要な臓器が左側に多い
- 進化や生活の中で、右利きを前提とした動作や道具が増えてきた
- そのため、左利きの人は「少数派」として、右利き前提の環境に適応する必要がある
ここから発展して、
「本来守られる側の左側を、たくさん動かすことになるから負担では？」
という考え方が生まれました。
ただし、現在の医学・解剖学の観点からは、
- 「左利きだから心臓に直接負担がかかりやすい」とまでは言えない
- 日常生活での負担は、利き手以外の要素（運動習慣・ストレス・生活習慣など）の影響も大きい
と考えられるのが一般的です。
右利き前提の社会環境が与える「間接的な」影響
一方で、右利き中心の社会構造が、左利きの体に間接的な負担をかける可能性はあります。
- はさみ・包丁・マウスなどの道具が右利き用に作られている
- 自動改札、ドアノブ、家電のボタン配置なども右利き基準
- スポーツのルールや設備も、多くは右利きの動きを標準として設計されている
こうした中で、左利きの人は
- 身体をねじる
- 手首や肩を不自然に使う
- 右手を無理に使う
- といった場面が増えがちです。
これらが姿勢の崩れや筋肉のアンバランスにつながることはあり得ますし、
長い目で見れば、肩こりや腰痛、疲れやすさなどとして現れることも考えられます。
ただし、これも「左利きだから心臓が悪くなる」というより、「右利き前提の環境で無理な動きを続けると、体全体に負担がかかりやすい」
と理解した方が近いでしょう。
参考：中日・大島語る左利きの苦労】人間の心臓、内臓の位置は右利き向き 逆の動きする左利きは負担
「左利きは寿命が短い」という説は本当？
きっかけになった有名な研究
「左利きは右利きより寿命が短い」という説が大きく広まったきっかけの一つが、1990年代にアメリカで行われた研究です。
その研究では、死亡診断書などのデータをもとに左利きと右利きの寿命を比較し、
左利きの人は平均して約9年寿命が短かったという結果が報告されました。
このインパクトのある数字だけが一人歩きし、今でもネット上でたびたび引用されています。
その後に指摘された「限界」と問題点
しかし、後になってこの研究にはいくつかの限界があることが指摘されています。例えば：
-
調査対象となった高齢者世代では、子どもの頃に左利きを矯正されて右利きとして生きてきた人が多く、「本当は左利きだった人」が右利きにカウントされている可能性がある
-
時代によって、
- 医療レベル
- 交通事情
- 労働環境
などが大きく異なり、単純に「利き手だけ」で寿命を比較するのは難しい
-
調査方法や統計上の偏りによって、数字が大きく見えてしまった可能性がある
こうした理由から、現在では
「左利き＝必ず寿命が短い」と言い切ることはできない
という見方が一般的です。
現在の考え方：利き手だけで寿命は決まらない
近年は、利き手の違いだけでなく、
- 食生活
- 運動習慣
- 睡眠・ストレスの状態
- 医療へのアクセス
- 職業や生活環境
といった、複数の要因が寿命に影響していることが強調されています。
そのため、
- 「左利きだから寿命が短い」と不安になる必要はなく、
- むしろ右利き・左利きに関係なく、生活習慣全体を整えることが大切
という結論に落ち着くのが自然です。
左利きだとどんな病気になりやすい？
左利きの人がかかりやすいとされる病気には、いくつか特徴的な傾向があると考えられています。ただし、すべての左利きの人に当てはまるわけではないため、過度な心配は不要です。
まず指摘されるのが、免疫系に関連する病気です。左利きの人はアレルギーや自己免疫疾患、さらには重症筋無力症といった病気にかかるリスクが高いという報告があります。これには、胎児期のホルモン環境や脳の発達過程が関係している可能性が示唆されています。
また、神経系の問題として、言語障害や読み書き障害（失読症）が左利きの人にやや多いという研究も存在します。脳の左右差が小さい左利きの脳では、特定の機能が分散されやすく、それが回復力を高める一方で、初期の発達段階では負担となることがあると考えられています。
とはいえ、こうしたリスクも個人差が大きく、現代では医療やサポート環境が整っているため、特別な制限を感じる場面は少なくなっています。このように考えると、左利きであることを過剰に不安視する必要はないでしょう。
左利きは心臓に負担になると言われる真相を徹底解説
子供が左利きになる理由と脳の仕組み
子供が左利きになる背景には、脳の発達が深く関係しています。単なる個性や偶然ではなく、科学的に説明できる仕組みがあるのです。
脳は左右に分かれており、一般的には左脳が言語や論理的思考を司り、右脳が空間認識や直感を担当しています。人間の体は脳と交差して支配されているため、左脳が発達すると右手を使いやすくなり、右脳が発達すると左手を使いやすくなります。このため、胎児期から右脳の発達が優位になると、左利きとして生まれる可能性が高まるのです。
例えば、胎児の脳に影響を与えるホルモンバランス、特に男性ホルモンの影響で左脳の成長がわずかに遅れることが、右脳の発達を促し、結果的に左利きが生まれるという説もあります。
ただし、必ずしも一つの要因だけでは決まらず、遺伝的要素や環境も絡み合っているため、脳の発達だけで左利きが決まるとは限りません。複数の要因が影響しあう中で、結果的に子供が左利きとして成長するケースがあるのです。
遺伝との関係はどこまで本当か
左利きが遺伝するかどうかは、長年にわたり研究されてきたテーマです。遺伝との関係はある程度認められていますが、単純な仕組みでは説明できないことがわかっています。
まず、親が左利きの場合、子供も左利きになる確率が高まる傾向は確かにあります。具体的には、両親が右利きの場合でも約10%の確率で左利きの子供が生まれ、片親が左利きの場合は約20%、両親ともに左利きの場合は約25%に上昇するとされています。
これは、利き手を決めるとされる遺伝子が存在する可能性を示唆しています。ただし、血液型のように単純な優性・劣性で説明できるわけではありません。複数の遺伝子や、胎児期の環境要因も絡んでいるため、左利きが必ず遺伝するわけではないのです。
また、家族に左利きがいなくても、突然左利きの子が生まれることもあります。これらの事実を踏まえると、遺伝は「影響を与える一因」ではありますが、「すべてを決めるものではない」と理解しておくべきでしょう。
左利きの割合は世界と日本でどれくらい？
左利きの人口割合は世界的に見ても一貫して少数派であり、だいたい10%前後とされています。国や文化による多少の違いはあるものの、大きく偏ることはありません。
日本でも、左利きの割合は約10%といわれています。ただし、以前の日本では左利きは矯正されることが一般的だったため、高齢者世代ではさらに少なく見えることがあります。最近では、個性を尊重する傾向が強まり、無理に矯正するケースは減ってきました。
一方、欧米諸国では左利きへの理解が進んでおり、教育や社会システムも配慮が進んでいます。そのため、左利き人口の割合も若干高めに報告されることがあり、アメリカでは12～13%前後に達するデータも存在します。
このように、世界中どこでも右利きが多数派であることに変わりはありませんが、左利きが認められる社会環境の違いによって、見た目の割合には若干の差が生じることがわかります。
右利きと左利きの平均寿命を比較する
右利きと左利きでは、平均寿命に差があるのかという疑問がたびたび話題になります。結論から言うと、統計上、右利きの方が左利きよりも平均寿命が長いというデータが存在します。
カリフォルニア州立大学による研究では、左利きの人は右利きよりもおよそ9年ほど寿命が短いとされました。ただし、この調査結果には、時代背景や統計的な偏りがあったことが後に指摘されています。特に、昔は左利きの矯正が一般的だったため、純粋な比較が難しいとされています。
また、現代では医療の進歩や社会の意識変化によって、利き手による大きな寿命差はほぼなくなってきているという見方もあります。生活習慣や医療アクセス、ストレス管理といった複合的な要因が寿命に影響を与えるため、単に利き手だけで平均寿命を断定することはできないのです。
このように考えると、現在において利き手が寿命に与える影響は限定的であると言えるでしょう。
左利きに起こりやすい日常のストレスとは
左利きの人は、日常生活の中で右利きの人とは異なるストレスを感じやすい場面が多々あります。これは、社会全体が右利き中心に設計されていることに起因しています。
例えば、はさみや包丁、自動改札機、パソコンのマウスなど、日常的に使う道具のほとんどは右利き用に作られています。このため、左利きの人は無理に右手を使うか、不自然な姿勢を強いられることが多くなります。こうした小さな違和感が積み重なり、ストレスとなるのです。
また、文字を書くときにも問題が生じます。左から右へと書き進める横書き文化の中では、左利きの人は手が文字にかぶさり、インクが擦れたり、書きにくかったりすることが珍しくありません。
このような状況は、子供の頃からの経験として積み重なり、自己肯定感の低下やストレス耐性への影響を及ぼす可能性も指摘されています。日常の中の小さな違和感を減らす工夫が、左利きの人にとって大切になってきます。
左利きと右利き、リスクの違いを考える
左利きと右利きでは、生活上のリスクに違いが生まれることがあります。ただし、これらのリスクは個人の行動や環境により大きく左右されるため、単純な比較はできません。
左利きの人が直面しやすいリスクには、交通事故のリスクが挙げられます。右利き向けに設計された自動車や道路設備を使用する際、左利きの人は操作にわずかなズレが生じやすいとされており、これが反応速度や安全確認に影響を与えることがあるのです。
また、機械や作業道具の使用でも、右利き設計のものを無理に使うことによって、事故やケガのリスクが高まる可能性があります。たとえば、右利き用の電動工具を左手で扱う場合、想定外の動きが起こりやすくなることが知られています。
一方で、左利きにはスポーツや対人戦で有利に働く場面もあります。例えば、テニスやボクシングでは左利きが珍しいため、対戦相手が対応に苦労することが少なくありません。
このように、左利きと右利きでは、リスクにもメリットにも違いがあることを理解し、それぞれに合った対策を講じることが重要です。
まとめ：左利きだからといって、過度に心配する必要はない
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 「左利きは心臓に負担がかかる」「寿命が短い」といった説は、
一部の研究や古いデータがきっかけで広まりましたが、
現在では決定的な事実とはみなされていない - 左利きそのものが心臓を直接弱くする、という明確な医学的根拠はありません
- ただし、右利き前提の道具や環境で、
無理な姿勢や不自然な使い方を続けると、体に負担がかかることはあり得ます
→ 左利き用の道具を取り入れる・無理な矯正をしないといった工夫が大切 - 一部の研究では、左利きと特定の病気・発達上の特徴との関連が報告されているものの、
結果はさまざまで、「左利き＝必ずリスクが高い」とは言えない - 子どもが左利きになる背景には、脳の発達や遺伝、環境が複雑に関わっています
→ 左利きは「体のクセや個性の一つ」として捉えるのが自然 - 寿命についても、利き手だけでなく生活習慣や医療環境など多くの要因が影響するため、
左利きだからといって短命と決めつける必要はありません
左利きであることは、決して「欠点」や「リスクそのもの」ではなく、
右利き多数派の社会の中で、少し工夫が必要になるひとつの特性です。
不安になる情報が多い時代だからこそ、
極端な説をそのまま信じるのではなく、
「今わかっていること」と「まだはっきりしていないこと」を分けて捉えていくことが大切です。
他に読まれている記事です。
